ギムレットには早すぎる

アルベール・カミュは憎たらしいくらい立派な鼻をお持ちのようだ。そして、脳髄には死体が埋まっていたのだった。そんな風な高校時代の記憶が、ふと甦った。昔、友人が、夏休みの読書感想文で『異邦人』を題材にし、カミュへのオマージュとして不条理をテーマにした作品を書いたのだった。
その作品に出てくる男と同じように、僕はバーでギムレットを飲んだ。男のように一人きりではない、大学の友人らと一緒だった。友人が書いた小説に出てくるバーは、僕には新宿を思わせたが、僕らが飲んだのは神楽坂だった。男がそうであったのように、流した涙で酒がしょっぱくはなることはなかったが、粘膜が弱まっていたせいで、僕の目から涙が止まることはなかった。
高校生の僕には、いくら頭をひねくり回しても、ギムレットなんて言葉は出てこなかった。『ロング・グッドバイ』のせいもあってか、今ではギムレットはハードボイルドをも連想させる。僕はハードボイルドに憧れたことは一度もなかったが、友人からはそんな印象も引き出される。あの頃から、レイモンド・チャンドラーなんかも読んだりしていたのだろうか。
少し酔っぱらった。大学の友人との会話が弾む一方で、そんな妄想も膨らんでいった。今日、初めてバーに入ったのも、きっかけはひょんなことだった。相変わらず僕は酒が弱いし、多くの場合、酒の場で馴染んでいるとは言いがたい。それでも、ウマい味のする世界が、自分にもまだ開かれている気がして少し嬉しくなった。


ロング・グッドバイ

ロング・グッドバイ