養老孟司

昨年の夏は、四国に行った。行く前は、大江健三郎が生まれた土地なのだから、それは森が深いのだろう、くらいに思っていた。それに、学生時代に愛媛の宿で知り合った30年後の私が、四国カルストに向かうと呟いていたから。
四国山地にひっそりとある宿の、食堂から見た嵐の様子が今も頭から離れない。今一度、体がひとりで満たされたとき、その声なき声に近付くのだと思う。