ひでお爺さん

『新潮』を初めて手にとる。文芸誌はどんな人が買うのか。それぞれにどんなイメージがあるのか。あまり想像がつかなかったが、未発表の小林秀雄の講演が聞きたいという理由で買うことにした。
表紙には、舞城王太郎東浩紀といった文字が踊っている。舞城の『すっとこどっこいしょ』を読んでみるも、一文字目から「神」。舞城は知り合いが好きそうなので、いくつか読んだことがあるが、「神」っていう言葉が脈絡もなく出てくるので、どうも馴染めないでいる。溶けきれないでいる味噌汁の味噌みたいに残る感じ。別にうゔぇっとはしないか。インドに行ったきり帰ってこない兄の部屋に置かれた、白い包帯でぐるぐるに巻かれた、送られものみたいな感じ、か。

付録のCDは、未発表だけでなく、既にある講演集全六巻の中からもいくつか選ばれていた。僕自身、好きな話も多かったのだが、こうも切り取られたものばかりを雑然と並べられても、雰囲気が味わえない。同じ話を聞いても不思議と響かない。アイマスクをする。頭には電気を流す。上からは偉そうな人の声が流れてくる。大げさだが、そんな感じもしなくはない。
CD自体は、講演集の宣伝のように思えるが、ひでお爺さんのする新しい話には、やはりハッとさせられる。最近では、口を開けば開くほど、その人にうんざりしてしまうことも多いくらいだから、不思議な気もする。小林秀雄という人がどんなひとだったのか、僕には全くわからないが、本人が最も期待しないようなかたちで、昔も今ももてはやされてきてるような気がしてならない。



新潮 2008年 12月号 [雑誌]

新潮 2008年 12月号 [雑誌]