外濠

外濠を眺めることが多くなった。左に市ヶ谷、右に飯田橋。神楽坂を前に、富士見坂を背にして。
外濠の外側をなんとなく毎日歩いていたら、自然と内側に気持ちが向かっていった。日本の中心には森がある。昔、江戸城があったところ。
江戸時代ってどんなだろう。ここ一年くらい、僕の頭の中にある。鎖国なんていう信じられない発想の中、今の時代と比べてみても、複雑な均衡が絶妙に保たれていたように思えて感心することが多い。実際はどうだったのか。
古事記を読んで素朴な感動を覚えた。毎晩眠る前に、小林秀雄の講演集に耳を傾けていた。そういうときって、いつもいつも新鮮な風が吹く気がするけれど、初めからそうした風の中で育ってきたのが自分なのかもしれない。今の時代を日々暮らしていて、僕の頭に、大和心とかもののあはれ、っていう言葉が印象深く残ってしまうのも、特別不思議ではないのかもしれない。でも、安吾の日本文化私観だってもう60年以上前の話らしい。
ムルソーは、たった一日だけしか生活しなかった人間でも、百年は生きられる、って刑務所の中で言っていた。僕だって、退屈しのぎでそんなことしているつもりはないんだ。


小林秀雄講演 第1巻―文学の雑感 [新潮CD] (新潮CD 講演 小林秀雄講演 第 1巻)

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