伊東豊雄

夜、表参道を歩く。3年振りぐらいに。そしてマリメッコでしましま靴下を買う。お金が無くなってしまったのでキム・ギドクの映画を諦めることに。せっかく来たので表参道ヒルズでも見物しようと思いさらに歩くも、実際入り口の前まで来ると不思議と興味が湧かなくなったりする。よっぽど道路の反対側にあるTOD’Sの建物の方が気になる。この建物の外観は伊東豊雄によってデザインされたもの。雑誌では何度か見たことがあったけれど、実際見てみると結構不安になった。東京タワーよりも際どい構造をしている。
オペラシティで『伊東豊雄 建築 新しいリアル』を観たのは年末のこと。僕が「伊東豊雄」という単語を知ったのもこのときが初めて。安藤忠雄の背後にいくら「国」という大きな力が見え隠れしていても、地中美術館で初めて安藤に触れた体験は僕にとってはあまりに大きかった。それと同じように伊東豊雄が覗こうしている世界に触れたことは、やはり僕には圧倒的なことだったと思う。
「暑くもなく寒くもなく、夜に外敵から襲われることも無かったら、壁を造らず自然の中で過ごすのが一番居心地いいのか」、僕は以前このように書いた。僕らの先祖は大自然の中で壁を造り、天井を造り、床を造ることで「内」と「外」をつくった。「内」と「外」とに分ける、この考えが建築の根本にはあると思う。しかし、伊東は自然界に適応していく建造物のカタチを模索する中で、内と外との隔たりをなくそうという今までの建築とは矛盾した考えに挑んでいる。この個展の始めで突きつけられたのは、床、壁、天井の境がなくなり、役割までもが溶解した洞窟のようないびつな形をした模型であった。実際に現在台北で造られているらしいが、実に驚かされたものだ。
形を有機的にするのではなく原理を自然界のシステムに近づけていこうという考えや、物質感が希薄な今の時代だからこそモノのもつ生の迫力を追い求めようとする姿勢。それを実現させるための試行錯誤と実験の連続。そして自分が想像もし得なかった可能性を求めようとする力の強さ。どれもが自分には刺激的であった。「物質感」を日々感じ、体験していくのはとくに大事なことだと思う。「感じる」ことによる「体験」が絶対的に少なくなっていく社会の中で、人があまりにバーチャルな世界の中だけで生活するようになった現状がとても怖い。その中から創造された考え方や言葉はとても虚しいものに映る。